八百屋のおじさんに交渉の交渉を重ねて、
トマトまで安く買えた。
あたしがここまでしっかり者なのは放浪
癖の父親と自由人の母親のお陰だろう。
物心付く頃から自分の両親が普通では
ないことを知ったもののあたしはあまり
顔に出すタイプの人ではなかった。
心では散々驚いてもポーカーフェイス
なんだとかでいつも周りに悟られない。
内心、焦ってても全然焦ってないように
思われるのが小さい頃からの悩みだった。
母親に似て勉強だけはやらなくても出来る
らしく、勉強をせずとも5教科の平均は
いつも90点以上だった。
そのせいか、周りからは優秀な子だと
よく言われ続けた。
学力社会とも言われる現代で生き残る
力を与えられて良かったとも言える。
父親にはよく褒められもした。
あの人は娘のことになると途端に
顔に力を失くしてへにゃへにゃする。
その癖、大事な娘を残してどこを
旅しているのか。
前は店を出してそれが上手くいかず、
母親が手を回して何とか始末をつけた
ようだけど、何かとやったことが続かない。
上手くいっても途端に壊したがる人だ。
そんな父親のどこに惚れる要素が
あったのか自分の母親ながら疑いたくなる。
自慢にもなってしまうが、母親はとても
綺麗な人で何でもかんでも上手くいっちゃう
人で、父親は顔が良くとも人生山あり谷あり
な苦労性のひとだと思ってる。
そんなあたしの家族にはまだ厄介な人が
居るけどそれはまたの機会に紹介しよう。
「ヒヨリちゃん、これ持ってきな。」
小さい頃からこの街を知って共に
過ごしてきた分、周りの人には
すごく恵まれたと思う。
サユの両親にも何かと面倒を見て
もらったりするが、商店街の人も
心の温かい人が多かった。

