「結構です。」
そう考えてばかりいたせいか口走るのも
早かった。
いや、断ろうとは思ってた。
「プリントを届けるよう頼まれただけ
ですからお構いなくこれで失礼させて
頂きます。」
にっこりと作り笑いを浮かべて唖然と
する彼の前から立ち去った。
お兄さんか分からないけど、
彼がきっと責任を果たして
プリントを渡してくれるだろうと
信じて帰路に着いた。
あたしの家は道から坂があって
その上を登らなきゃならない。
向かいの家がサユの家で、
たまにご飯をご馳走になったりと
家族ぐるみで仲がいい。
坂を登りながら家に生えてる
オレンジの木を見つめた。
父親がオレンジの好きな人で
あたしが生まれた年に植えた
とかであたしと一緒に育ってる。
この家に家族が全員集まったのは
もういつ以来だろう?
家に帰って来ても一人で、ほぼ
一人暮らしをしている。
一軒家で結構大きい方だと思ってるが、
この家に寄りつかない家族に疑問を抱く。
こんな立派な家を建てといて娘一人に
留守を任せるなんて子供不孝の親が居る
ものだ。
買い物鞄を持って財布とチラシを制服の
ポケットに入れる。
制服だけ可愛いので良かったと思う。
あの学校は多分制服にお金を掛けてる。
坂道を下りながらいつもと何ら変わらない
夕方を過ごしていた。
ただそれだけのことでそれ以上のことを
決して望んでいたわけではない。

