千治が眉間に手を当てる。
「それはさ、つまり相沢おめーアイツ
好きなのかよ?」
慶詩が言葉を詰まらせながらも言い切る。
ふわりと村田の白衣が揺れる。
「あの子をそんな目で見たことなんて
期待を裏切るようがねぇのよ。」
煙草の紫煙が保健室の薬品の匂いを消す。
「ひーちゃんもないだろうしね。
むしろ、嫌われちゃってるぐらいじゃないの?
お前、わざとらしくて笑えるもんな。
大事なもんは壊れそうだって近寄れ
ねぇタイプだもんなー。」
眼鏡をかけ直す村田が相沢を
ニヤニヤしながら見る。
「あのな、アイツマジで軽かったろうが。
あれはもう案山子だ。
木で作られた畑の横にあるあれだ。
大食いの癖にあんだけ細ぇのも
参ったもんだねぇ。」
相沢、委員長を運んでた時そんなこと
考えてたのかよ。
「しょうがないさね。
ひーちゃんが言うこと利かないのは
今に始まったことじゃないだろう?
自分で何でもかんでも決めるんだ。
お前らだって後で止めときゃ良かった
って思うだろうな。」
白衣のポケットからボールペンを
出す村田は机に座った。
何かを書き込む様子を見る。
「手を引けんのは今の内だけなんだよ。」
相沢の真剣な目に言葉を飲み込む。
ただの好奇心で近づいていいヤツ
じゃねぇんだろうなってのは分かった。
頭下げるほどこの2人が守ろうとする
ぐらいだからそれだけが理由とは思えねぇ。
もっと何かあるような気がして確かに
手を引いた方がいいかもしれねぇと思った。
ただの好奇心で構ってたらこっちだって
身が持たねぇ。

