このあたしでなければ必ず惚れられてたぞと
思いながらあたしはさっきの佐藤君の言葉を
じっくり考え直す。
『もしものことがあったら、やっぱり
立花は逃げて欲しい。
俺はどうなろうといいんだ。
でも、立花女の子だから怪我させられない。
隙が出来たら逃げてくれよな。
俺がどんなになろうと振り返らず走れ。』
佐藤君の気持ちがあたしの足を止める。
今なら、誰にも気づかれずに逃げ出せる。
佐藤君が引き付けている今なら。
「や、や、止めろっ!!」
震える声で一生懸命立ち向かう佐藤君。
ひょっこりカウンターから様子を窺う。
男たちが佐藤君にギョッとする。
どこから入って来たんだとか罵声が
聞こえて怯む佐藤君。
頑張れ、佐藤選手!
負けるな、佐藤選手!
応援しか出来ないあたしは足元が
動けないでいた。
逃げるなんてあたしには出来ないよ。
一緒に助けるために来たんじゃないか。
逃げるなら最初から逃げてた。
「うっ」
佐藤君の殴られた音に目を覆った。
あたしの役立たず。
2人が傷ついてる状況下で何を立ち止まってるんだ。
佐藤君の勇気を無駄にしてあたしは・・・
何も出来ないなんて嫌だ。
動け、足。
動いてよ!!
お願いっ、2人を助けたいよ。
足をボコボコ殴りつける。
佐藤君が殴られて倒れる。
明香里ちゃんの悲鳴のような声にあたしは
意識をはっきりとさせ、フルスピードで
状況を丸のみした。

