あんなにドキドキしたことはなかったよ。
見つかりやしないかで冷や汗かいちゃったもの。
「煩いな。」
だったら、放せやと思って腕を払うも、
「退けてー」
全然放してくれない。
どうなってんだ。
「お前、いい匂いがする。」
ドキッとするようなことを言うな!!
当たり前だろうが。
お風呂上りだったのだから。
「やめっ」
あたしの髪に当たる鼻が擽ぐったい。
「へっ、変態!」
例え、顔がどんなに綺麗だったとしても
これは・・許されぬ仕打ちだ!!
こんなことになるなら茫然と見てれば
良かったに違いない。
「お前、よく見りゃ可愛い。」
ぶっー!!
この男何をさらっと言っちゃってんですか?
マジでこれだからモテる男は!!
ボケッと男に何故こんなにドキドキさせられ
なきゃならんのだ。
あー、腹が立ってきた。
「きっ、近づくな。」
腹立たしさで腸が煮えくり返りそうだ。
ふわりとオレンジブラウンの髪が風に
攫われた瞬間前髪が舞った。
本当に綺麗な顔して腹立たしい。
いっそのこと顔面パンチを繰り出したい。
どうして、心臓の音が鳴りやまない?
ふいに近付いてくるちぃー君の顔に
かなりの警報が鳴りだした。
心臓がバクバクと動きだし、
息も出来ないぐらいになって、
「ッチ、馨か。」
スウェット地の灰色のズボンのポケット
からケータイを取り出すちぃー君を唖然と
見つめるしかなかった。

