空がオレンジ色に染まるまで、私は兄と昔話をしていた。

小さい頃から品を求められ育てられた私たちには、変なエピソードがたくさんある。
兄と思い出に浸るなんて、今まではなかったことだ。

 
私たちは後ろは見てはいけないと思っていた。
だけど、ふと振り返ってみた後ろは、意外と優しく楽しいものがつまっていた。


 
忘却は一種の方法だ。
辛い思いを覚えて生きていく必要は無い。

 
しかし、全てを忘れてしまおうと思う程、酷い過去はないものだ。
何かしら良いことがついてくることもある。

 
尤も、全てがそういうわけでもないのだろうけれど。


 
話が丁度一息ついたところで、兄の携帯電話が鳴った。
どうやら嶌田かららしい。

その会話から、嶌田がここに迎えに来ていることがわかった。


「まったく、どれだけ鼻が利くのかしら」


電話を切ると同時にそう言うと、兄が苦笑を浮かべる。


「いや、彼はお前のことを大事にしているだけだ」

「そうかしら。なんだか忠実過ぎて」


素直な気持ちを口にすると、兄はにっこりと微笑んだ。


「前にな、聞いたことがあるんだが。お前の運転手としてついて暫くして、お前が泣いたことがあったんだそうだ。それがきっかけらしい」


兄が、嶌田とそんな話をしていることが意外だった。
会話はいくらかはあったのだろうが、そんなことを嶌田が話したのだろうか。