私は川沿いにある大きな公園にいた。ついさっき脱走した、愛犬のミミを探す為だ。ミミの散歩はいつも決まってこの公園だった。多分、この辺りを彷徨っているに違いない。
ミミを探していると、少し先で煙が上がっているのに気付いた。煙の方へ近付いていくと、二十歳前後の青年が焚き火をしていた。ミミは青年の隣に当たり前の様に座っている。夕日に照らされたミミと青年は、まるで一枚の絵の様だった。

『あの…すいません。』
私はミミを指差しながら、青年に声をかけた。

『あぁ。君の犬?』

そう言って青年は優しく微笑み、ミミを抱えると私に渡してくれた。

『ありがとう。』

私はお礼を言って立ち去ろうとしたが、焚き火が気になり青年に話しかけた。

『ここ。焚き火禁止ですよ。』

『あぁ。そっか。そうだよね。』

そういいながらも、青年は焚き火を見つめていた。
私は、燃やされてる物をちらと見る。炎の中には布や時計など、焚き火には向いていないだろう品々と、ついでの様にアルミホイルに包まれた薩摩芋が焼かれていた。

『なんで、燃やしているの?』

私の質問に青年は、一瞬戸惑った様子で私の方を見た。そして、また炎の方へ視線を移すとぽつりと呟いた。

『証拠いん滅…かな。』

『証拠…?』

私の声に少し悲しそうな笑顔をみせながら、青年は続けた。

『これね。彼女のなんだ。』

青年は右手の人差し指を立てた。

『で。もう一人の彼女に見つからない様に、消しちゃうの。最近、しつこくなってきたしね。』

そういって右手の中指を立て、左手でさっき立てた人差し指を隠す。

二股…かぁ。

なんだか急に居心地が悪くなった。

『あの。私帰りますね。この子、ありがとうございました。』

そういって背を向けた私に、青年が声を掛ける。

『待って。焼き芋あげる。だから今の話内緒にしてよね。』

青年は焚き火の中から焼き芋を取り出すと、そのまま新聞紙に包んで渡してくれた。私はそれを受け取り、ぺこりと軽く頭を下げ、青年から逃げる様にその場を後にした。

あんなもので焼いて焼き芋なんて、食べられるのかしら。



遠くでは、パトカーのサイレンが鳴り響いていた。