「あの桜の木に花が咲いたらさ、

2人の夢が叶うんだってよ。」


「…そんなの、覚えてない。」


それは、

幼かった私が桃乃木についた大嘘だった。


「小さい頃のお前がそう言ってたんだ。」


昔、そこにいたのは

私と桃乃木

二人でそんな約束をした。

もしも、

もしも、

あの若い桜の木に花が咲いたら

私たちは大人になっていて


当時一番お互いが望んでいた

夢が叶うのだというそんな小さな夢物語。


「そんなこともあったね。」


そう言うと、桃乃木は笑った。


「お前の夢が叶うように祈ってるよ。

もしもアレに花が咲いたらさ、俺らは大人だ。

夢をかなえられる年になるんだ。」



桃乃木、何言ってるの?



「実際に花が咲くわけじゃないと思うけどさ、

祈ってたんだ。この木にずっと。

美里の夢が叶いますようにって。」


「そうなんだ。」


「そうだよ、俺はいつも桜を眺めてたよ。」


―桜はもう散ってしまった。―


「これからはさ、

もう今までみたいに会えないけど俺はずっと思ってるよ。」


― 何でたった一言が言えないんだろうな。 ―


「桃乃木…。」


― 一緒に見に行こうって。―


「お前の夢が叶いますようにって。」


― そして、―



「うん。」


「じゃあな、行くわ。」



- キミのこと世界で一番愛してるって。 -



そう言うと、桃乃木は自転車をこぎ出発した。


 
後ろを振り返ると桃乃木と目が合った。
 











- 今まで、ありがとう。 -








桃乃木

 
 
 
 
「・・・ありがと。」