そんな痛みと同時に

ガチャという鈍い音をたててドアが開いた。

「桃乃木君後でまた来るからね。」

そう言って桃乃木の家から出てきたのは

少し太った白髪交じりのおじさん。
 
「じゃあ、板倉さんまた後できてください。」

「えぇ。」

そう言うと、板倉と呼ばれていた男は帰って行った。

「あっ…」

桃乃木と目が合った。

その瞬間、

私は、彼に駆け寄り抱きついていた。


「…お前、何してんの?」


「え?」


桃乃木が声をかけてきて

あわてて手に持っていた鞄をぎゅっと握った。

「え、うん。楓さんが亡くなったって聞いて…」

「それで来てくれたのか。ありがとな。」

彼の様子を見る限りじゃ

思ったよりも元気そうな感じ。

ううん。

元気そうに見せている。

『ありがと』

彼は、表には出さないけれど疲れていた。

「なぁ…美里、手を…その…」

そう言われて

私は、今の状況に気が付いた。

「あっ!!」

桃乃木に抱きついている。

「…。」

「ご、ごめん」

焦って手を放す私。

離れた私は桃乃木の顔を見つめた。


「少し寄ってくか?」

桃乃木に言われるまま、

私は桃乃木のアパートに酔った。


「母さん帰ってるんだ。そこで寝てるだろ?」


桃乃木が視線を送る部屋の方向には

死装束で眠る楓さんがいた。


私は、

今日の夜、お通夜に来るつもりだった。

桃乃木は沢山泣いているんだろうと思って

慰めに来てたつもりだった。


でも、今、

泣いているのは私…

涙が止まらない。

声にならない声を上げて桃乃木に寄りかかっている。



「来てくれて、ありがとう。…母さん喜ぶよ。」


窓の外で聞こえる雨の音。

私の頬を伝う涙と共に

その音はだんだん

大きくなってきていた…。