それから長い沈黙が続いていた。
あの時あった出来事は
きっと忘れることができないだろう。
傘を差すと降り始めた雨の音と、
桃乃木の足音だけが私の耳元で響いているのがわかった。
ひたすら
ただひたすら
私たちは真っ直ぐ歩いていた。
雨は降ったりやんだりの繰り返し。
一歩一歩と歩むごとに
私の心の中にも
桃乃木への疑問が雨粒のように溜まっていった。
『美里の事が好きなんだよ。』
学子が言ってたあの言葉。
コウスケが好きだと決めても気になるあのこと。
何も言わず、ただ黙々と歩く桃乃木の顔が
傘に隠れて唇だけが見えている。
唇。
その言葉がなぜか胸に引っかかる。
桜公園の前に着く頃に
ようやく私たちは口を開いた。
最初に言葉を発したのは私。
「ねぇ?桃乃木はしたいとか思わないの?」
唐突な質問。
「何を?」
「…キス」



