「でも、風邪引きながらデート行く美里も悪いよね。

しかも、恋敵と。腹立てない方が変だよ」


うん。学子に

そう言われたらおしまいな気がした。





「ヒカリは?ヒカリは知ってるの?」


私は首を振った。


「ヒカリは桃乃木が好きだから、こんなこと言えないよ。」


確信してしまった気持ち。

こんなこと、話せない。


ため息をつきながら学子は

私に質問を投げ掛けた。


「桃乃木君ってさ結構しっかりしてるじゃん?」

 
うん。

毎朝、私を迎えに来てるし

テストの日なんかは


忘れっぽい私のために

時計の予備とか消しゴムの予備とか

いつも持ち歩いてるし。

真面目男の象徴だ。

そのせいか友達もあんまりいないし。


学年1位なんてバカみたい成績だし。


無愛想だし。


「でも、美里だけには甘えてるんだよね。」


甘え…?


「桃乃木君の気持ちってさ、みんなが知っているよ。」


学子も?


「さっきも言ったけど多分、

みんな知ってる。

気がついてないのは美里だけだよ。」


誰かに頼りたくて、

話を聞いて欲しかったんだ。


だけど、素直に話せなくて。


「美里が好きなんだよ。」


「…うん」


そう言うと

学子は

校舎の窓のほうに歩き出し、

手で髪を押さえながら戸を開いた。

「気持ち、決まったんじゃない?」


「…うん。」

「さっき怒ってたのも心配とか、

お母さんとか

そんなんじゃないと思う。

ただ、『美里が好き』それだけ。」


いつもだったら

聞こうともしなかった『桃乃木』って単語。

素直に吸収できなかったその言葉が

すんなり心の奥に染み渡る。


「・・・行こッか。」


学子の眉、

への字に曲がってるよ。

今にも泣き出しそうなくらい。


元気のない私を励ましてくれてるんだね。

ありがと。学子。



・・・。


そっか。


桃乃木、私の事好きなんだ。


そっか。