コムラは慌てて自分の口を手で塞いだ。

「でっでも、りん! 危険だって分かってる? 山の主はとても気性が荒いの。何より…人間嫌いで…」

ミトリの声がだんだん小さくなっていく。

「―良いじゃないか」

「キムロ!」

コムラがキムロを睨み付ける。

「最後の思い出として、ね?」

キムロがわたしに微笑みかける。

…ああ、本当に狸は人を化かす。

でもわたしはあえて、化かされる。

「ええ、最後の思い出として、ね」

「りん…」

コムラが心配そうにわたしを見ている。