「どうせ昨夜もまともに寝てないんでしょ。だから昼間もあんなに居眠りして~。まったく」

「う~、ゴメンって。気を付けてはいるんだけど…」

 実際はちゃんと寝ていた。夕方と夜間を合わせて半日以上もの時間を。そんなに寝たのなら、眠気など起きるはずなどない。‘普通’ならば。

珠結は彼女達に一切の沈黙を貫いている。‘眠り病’なる原因・正体不明の病の存在とその症状も、実は取っている十分すぎるほどの睡眠時間も、彼女達は何も知らない。

 習慣化した居眠りや最近始まったこのようなハプニングについて、いつだって真逆の寝不足のせいだとごまかしている。事実をひた隠しにして、バカみたいに笑っていることに罪悪感はある。

それでも言えないのは、この距離感を崩壊させたくないから。自分の病を知った時の人々の反応を想像したくないのだ。

 気の置けない友達に関しては、拒絶は無いと思う。しかしあからさまに病人や弱者への哀れみの目を向けるようになったら? 同情としてやけに自分に気を使うようになってしまったら?

はたまた周囲には、異質な存在として避けられるようになるのでは? 最悪、ただの怠慢だとして病の存在すら認めてもらえなかったら? 想像すればするほど深みにはまって、疑心暗鬼に陥ってしまう。

 彼女達の心を勘ぐり、変に疑っているのではない。しかし全ての場合に可能性はついて回る。ほんの数%だとしても、完全な0ではないのだ。

特別に何かをして欲しいのではない。ただ、今までと変わらず普通に友達でいてほしい。一方で知る前と後で態度が変わってくるのは、絶対的だと悟っている自分がいる。

 できることなら、些細な心配だってかけたくはない。しかしすでにそれは始まってしまっていることは分かっている。まだ何とかごまかせているが、限界は遠からずやって来るだろう。

 珠結にできることは2つのみ。1つはこれ以上症状が進行しないことを祈り、処方された薬を飲み続けること。もう1つは画期的な治療法が見つかる日を待ち、打ち明ける・打ち明けないでの苦悩が杞憂に変わるのを願うことだ。

 なんて愚かな。どちらの希望も叶うという確証が無いにしても。

結局は身動きが取れないまま、沈黙することで現実逃避を正当化しているのだから。