「ちょっと思い出しちゃうな…… グアムの朝食」



先生は、眉を少し下げながらそう言って、グレープフルーツにかじりついた。



ちょうど私も思い出していた。




まさか、途中で帰ることになるなんて予想もしていなかったけど。


あの朝食……

楽しかったなぁ。




「ま、今日から第2回新婚旅行だからな。泥棒に感謝だな。あれがなければ、北海道に来ることもなかったかもな」



久しぶりに言ってみる。



「グレープフルーツになりたい」



先生は、グレープフルーツに唇をくっつけたまま、驚いた顔で私を見つめた。



「さすが、直だな…… 俺マニア」



覚えてるよ。


高校時代、まだ片想いだった頃、先生が“グレープフルーツの飴が好き”って言ったこと。



「俺に食べられたいって意味?」


「違う!!違うよ、本当に!先生が幸せそうに食べてるから」


「やっぱりそうだろ?俺はお前を食べるときも幸せそうだろ?」


小声でそんなことを言う先生。


きょろきょろと周りを見回した後、先生が言った。




「部屋に戻ったら…… 直をいただきます」



私は何も答えられないまま、オレンジジュースをおかわりする為に席を立った。




恥ずかしいよぉ。


先生、どうしてあんな真顔であんなことが言えるんだろう。