「……はよぅ、ございます。
 ジョギングですか?」

 研究中の機械のテストをしながら、せっかく郵便受けまで来たのに。

 目当て新聞は、まだ届いていなかった。

 すごすごと戻ろうとした私の目の前を、三軒隣の山田さんが短パン姿で通る。

 慢性的な寝不足で、目をこすっている私と違い。

 山田さんは、実にすがすがしく、きらりっと笑った。

 十ほど年上の四十歳、中年男のクセに、私よりずっと若く見える。

「あ、大月センセ、おはようございます。
 いやぁ、どうせ『ヤツ』が朝早く起こしてくれるなら。
 時間は、有効に使おう、と思いまして」

 言って、山田さんが見上げる先には大怪獣がいた。

 全長二十メートル。

 今は、ウチの私設電波塔のすぐ隣にいるが。

 その塔と比べても、生き物としては、規格外の大きさだと思う。

 しかも。

 亀の甲羅に、蝙蝠の羽四対。

 ん、で、なぜか。

 巨大サイズにもかかわらず小型犬の、トイ・プードルそっくりの丸みをおびた顔。

 それが、ウチの敷地に面した道路と、堤防を挟んだ向こうの砂浜に、いて。

 ワニみたいなしっぽを、ご機嫌にぱたぱた振って私たちの様子を見てた。

 その尻尾が、あまりにでっかいため。

 海の水をばしゃばしゃ跳ね飛ばし。

 あたり一面、ざあざあと、雨みたいに降り注いだ。

 当然、私ばかりでなく、山田さんまで頭から海水をかぶり、あっという間に髪から水が滴る。