ただ一つ気に入らないのは。

「千春君、今日はええ天気じゃね」

「千春君、特売の卵はもう売り切れたん?」

「千春君は元気があってええ子じゃねー」

これだ。

みんな俺を下の名前で呼ぶ。

千春。

女みたいな名前だ。

「やめてくれんかねー、せめて『橘君』って呼んでーや」

男らしくない自分の名前に、俺はイマイチ愛着を持てなかった。

「何で千春なんて名前なんかなぁ…女の子と間違われるじゃんか」

商品を陳列し終え、空になった段ボール箱を潰しながら一人呟く。