「千春くーん」

お客のおばちゃんに呼ばれて、俺は店内を小走りに走る。

慌てる必要はない。

お客はそのおばちゃん一人だけだ。

「サラダ油はどこにあるんかいねー?」

「あ、ちょっと待っとってね。サラダ油は…あぁ、ここ。ここに置き場が変わったんよ」

陳列棚に置いてあるサラダ油を手にとって、おばちゃんに渡す。

…こんな町だ、客は少ない。

来るのも大抵は年配の人ばかり。

お客はみんな俺の事を、『千春君』と呼ぶ。

橘千春。

高校を出てすぐにこのスーパーで働き出した俺を、お客さんも我が子のように可愛がってくれた。