探偵バトラー ~英国紳士と執事~

「あの……つかぬ事を申し上げますが」

 オレはついに我慢しきれなくなってこう切り出した。

「何だ。申してみよ」

「もう少し声のトーンを落とされた方が。通行人の気を引いてしまっているようですし」

 問題は声のトーンではなく、連呼している単語だったりするのだが、さすがにそれを正直に言うのは憚(はばか)られた。

 名前が変態的なので連呼するのをやめて下さい、なんて本人の目の前で言えるわけがない。

 絵理の父から返ってきた答えはひどく簡素なものだった。

「気にするな」

 気にしろよ!

 そう間髪いれずに叫びたくなった。

 大体、さっきから必要以上にロシュツ卿の名を連呼してないか?

 ロシュツ卿はロシュツ卿で心なしか嬉しそうだし、故意に通行人に聞こえるようにしているんじゃないかという気さえしてきた。