探偵バトラー ~英国紳士と執事~

 程なくしてメイドに案内されてやってきたのは、長身痩躯に艶やかな黒髪の、はっとするような美少女、いや美少年。

 初対面だとたいてい女と見間違われる中性的な美貌は散々見慣れた顔である。

 だがしかし。可愛らしいのは外見だけ。

 女だと勘違いしてうかつに鼻の下を伸ばして近付けば、痛烈な反撃が返ってくる。

 きれいな花には棘があるというが、コイツの場合はそれに毒まで塗ってあるからなおさらたちが悪い。

「いきなり訪ねてすまないね。丁度近くを通りかかったから借りていた本を返そうかと思って」

 女性と男性の中間の柔らかな低音(アルト)。外見と声は性別を判別しにくいが、彼の名前は叢雲青司という明らかな男性名である。

「よい。今丁度そなたに連絡を取ろうと思っていたところだ。思いが通じたようで嬉しいぞ。ふふ」

 藤の間の玄関先で青司を出迎えた絵理はそう言って顔を綻ばせた。