しかし、手伝えと言われても正直困る。伝説の魔除けのこけしなんて聞いた事がないし、捜索や調査のノウハウもない。

 しがないバイトの執事に探偵の真似事をしろ、なんて随分な無茶振りだ。資金があるならオレなんぞに頼むよりも専門家を雇って探した方がよほど効率がいいと思うのだが。

 それをしないのは貴族の戯れか、何か思惑があっての事か。どちらにせよ、珍しくはしゃいでいる絵理に水を差すのも気が引ける。

 尤も、しがないバイト執事のオレには異論を挟むなんて出来ないのだが。


「しかし、『伝説の魔除けのこけし』とは一体どんなものなのだ? まずそれが解らない事には行動が起こせぬ」


 お菓子をせがむ子供のように絵理はロシュツ卿に問うた。こんな怪しいフレーズの何処にどう惹かれたのか解らないが、冷めた心境のオレとは対照的だった。


「まあ、落ち着きたまえ。まずはミスター・ジンの淹れてくれた紅茶を堪能しようじゃないか」


 ロシュツ卿にたしなめられ、絵理は立ち上がったままだった事を思い出したらしい。我に返った途端に頬を赤らめ、「失礼を」と一言謝罪して端座した。

 オレも座るように促され、下座に腰を下ろす。

 離れの客間の障子は開け放たれており、その先には広々とした日本庭園が広がっていた。外をたゆたっていた温風も中庭の緑と流水に阻まれて涼風に変わり、軒下の風鈴をちりんと鳴らした。