探偵バトラー ~英国紳士と執事~

 空港を抜け、車までたどり着いた。

 これでやっと羞恥プレイから解放される。

 そう安堵したのも束の間、江戸幕府第八代将軍が大暴れする時代劇のオープニングテーマが耳に入ってきた。

 絵理の父はその音の発信源となっている自分の携帯電話を取り出し、「失礼」という一言の後に電話に出た。

「佐伯か。……何。そうか。全く不甲斐ない連中だ。……仕方あるまい。儂が行こう」

 絵理の父はそう言って、忌々しげに携帯電話を閉じた。

「すまんが無粋な呼び出しが入った。儂はここで佐伯と合流し、パリへ発たねばならぬ」

「そうか。残念だよミツルギ。今夜、君と酌み交わそうと思っていた土産のコニャックは暫くお預けだな」

 せっかく再会した旧友の突然のスケジュール変更を、ロシュツ卿は嘆いた。

 その嘆き方も実に紳士然としており、顔立ちや雰囲気と相まって、映画のワンシーンを見ているようだった。