六花伝


伸彦は水の音のする方に顔を向けた。
さっきまで枯れていたはずの川に水が流れていた。
声がした。
「契りをかわそう。酒を持て。今宵は我が婚礼の儀だ。」
美都が瞳を開け、話していた。
傷は癒え、衣も純白に戻っていた。
だが、夢うつつのような表情で歌うようにしゃべっている。
「美都…」
思わず手を伸ばしたが、手は美都の体を通り抜けた。
驚愕した。
「ここにあるは娘の魂魄。肉体は我の依り代。この地との契りの証。
我が名は六花(りっか)。水龍だ。…酒をかわそうと言っているではないか。人の子よ。」
「…酒ならここにある。」
「そうか。なら良い。飲みかわそうぞ。」
美都の体がぐらりと崩れ落ち、ごうごうと流れる川から一人、若い男が岸に上がってきた。
瞳は水色。髪は金。肌は白く、鬼とはこういうものかとぼんやりと思った。