「上手くなったでしょう?」
「そうですね。私は、あなたが笛を習い始めた時から知っていますから、感慨深いものがありますね。」
ざわざわと、風に吹かれて桜の木の枝が揺れた。
美都はそちらに顔を向けた。
「伸彦。」
「なんですか。」
寒さで紫に淡く染まった唇を、美都は少しの沈黙の後開いた。
「今年は、桜、咲くかしら。」
その悲しげな横顔に、一瞬迷ったが、伸彦は耐え切れずに言った。
「きっと、咲きますよ。」
美都は、驚いた顔をした。
伸彦の言葉が意外だったのだろう。
「水が、足りないのよ。」
ぽつりと彼女は呟いた。
「それでも、桜は命を削ってでも、花を咲かそうとするのではないでしょうか。」
「何故?」
「花を咲かすために生まれたからですよ。」
そんなの、おかしいわよ。
声には出さなかったが、美都の口はそう動いていた。
「私たちくらいは、信じましょう。そして、」