書籍化されない作品



今でも覚えている


読んだ瞬間にのめり込み、気づいたら泣いていたあの優しい物語


物語ごと作者までも好きにさせた幻想師は確かにいたんだ


そこから会いたいと思い、連絡までしてやっとここまでの関係を築いたこの徒労


駄目な作品でここまで動く人はいるはずがなく、『それだけの価値』があるから私はここにいる


「見られて、みんな私みたく感動し、て……。それで……」


感情が高ぶり涙した


こんなことで涙するなんてと思われるかもしれないが、それだけ悔しいのだ


最高の物語


それを執筆する彼が今でも無名のままなことが


嗚咽すらも混じったところで、彼が私の頭を撫でてきた


「泣かなくてもいいよ。いつか絶対に、俺は本を出す」


君の涙は無駄にしないようにするからと、彼は