「なんだよ」
「忘れ物があるでしょう!?」
「ねぇよ」
あるでしょ! ここ! あたし!
目で訴えても忍には一切伝わらないらしく、再び「なんだよ」と言われてしまった。
「……忍、帰るんでしょ?」
「帰りますけど」
じゃあ言ってよ、帰るぞって。なんなら手とか繋いでくれてもいいのよ? もしくは肩抱き寄せてくれてもいいのよ?
ジッと見つめるあたしを、忍は真顔で見つめ返してくる。
伝わるでしょ? 分かるでしょ?
「気ーつけて帰れよ」
「そうじゃないでしょぉぉお!?」
バンッ!と会長の机を叩くと、忍は目を丸くさせてから吹き出した。
「笑うとこじゃないわよ!」
声を出さず体中を震わせる忍に、なんだか恥ずかしくなって顔が熱くなる。
バカ! 忍のバカ! 王子様失格にするわよ!? しないけど!!
忍はひとしきり笑ったあと「あーウケる」と言いながら眼鏡を外して目尻を拭った。
ムスッとしてるあたしは、忍が声を掛けてくれると期待していた。それなのに忍は眼鏡を掛け直してドアを開ける。
冗談キツいわ王子様。



