「テメェおい! シカトこいてんなよ!」
突然胸ぐらを掴まれて、あたしは驚きから目を見開く。
「女の子の胸ぐらを掴むなんて、そんなんだから一生使用人なのよ!」
「はあ!? さっきからお前何なんだよ! ナメてんのか!?」
……え? ああ、やだあたしったら。つい癖で妄想の世界に……。話噛み合ってなかった?
「ごめんなさい。……で? 何の話をしてました?」
あ。地雷踏んじゃったみたい。
ネズミさんは顔を真っ赤にして、ギリッと奥歯を噛み締めた。
「テメェ!」
あたしの胸ぐらを掴む手に力が込められ、ギュッと目を瞑れば、あの音。
――ガラガラガラッと、コンクリートをこするような、待ち焦がれた音。
“彼”だわ! 王子様!
グルッと勢い良く振り向いたせいでネズミさんがバランスを崩して転んだのには全く気付かず、あたしは歩道橋の階段を見上げた。
……あれ?
「いきなり振り返るんじゃねえ!」
「何でいないのよ!!」
あの音は絶対絶対、聞き間違いなんかじゃ――…。



