猛ダッシュで歩道橋の階段を降りきった瞬間、ちょうど登ろうとしていた人にぶつかってしまった。
肩の鈍い痛みを我慢して、どこ見てんのよ多分あたしが悪いけど! そう言おうと顔を上げた。
「って、え……?」
……茶色い、髪。
えぇぇぇぇえ!? ままままままさか“彼”!? なんて運命!
「ってぇなオイ! どこ見てんだ!」
肩を押さえて俯いていた彼が顔を上げて、あたしの体温は急激に下がる。そりゃもう新幹線よりも速く。
「ないわ」
「あぁ!? 何がだよ!」
その顔が。
「おい女! ぶつかったら謝るのが筋だろーがっ」
ちょ、汚い汚い汚いわねっ! 大口開けて怒鳴らないでよっ。
ていうかあなたこそ何? その顔! どこが王子様よっ! 悪いけど良くて下の中!
大体その服は何? 迷彩パンツに小花柄のシャツ? どんなセンス!
「聞いてんのかよ!」
あーヤダヤダ。きっと王子様の城に雇われてるタイプね? そして王子様を妬むタイプね?
妬んだって仕方ないじゃない。だって素敵無敵な王子様だもの。
一瞬でもこのネズミを“彼”だと勘違いしたあたしを許して、シンデレラ。



