「あたしのこと好きなくせにぃぃぃい!!」


ずいぶん遠くまで行ってしまった忍の背中に叫ぶと、王子様は逃げたあたしを追いかけてきた。それはもう優雅に方向転換をして。


「好きなら追い付いてみなさいよー!」


これが恋人たちのおいかけっこよ苺! 出来れば海辺が良かったけど、我慢よ。このまま食堂に行って、愛妻弁当を食べるのよ!


ほら、振り向けば忍は幸せそうに、頬を緩ませて、ゆっくりスローモーションのように追い掛け……。


「大声で何言ってんだこのドアホがぁあ!」


全力で走ってたぁぁぁあ!!


「ぎゃー! 何で怒ってるのよぉ!」

「怒るわ! アホか! つうか私服で学校来んなって言ってんだろうが!」


何言ってるのバカなんじゃないの!? 可愛いでしょこの白いワンピース!


ていうか王子様に会いに制服着るバカがどこにい……っ。


「ドレスの方が良かった?」


ゴッ!と、立ち止まり振り向いたあたしに、忍は強烈なチョップをお見舞いする。


「いったぁーい!」

「そういう話をしてんじゃねぇよ!」

「じゃあ何の話をしてるのよ!」


額を押さえて涙目で見上げると、忍は眉を寄せて、あたしから視線を逸らした。


何よ。忍のために精一杯オシャレすることが、そんなに悪いことなの?


制服より私服の方が可愛いじゃない。それとも服が好みじゃないの?


透ちゃんみたいに、ボーイッシュな服が好みだって言うの?