「……っのん」
「……うん?」
「あの、時……っ」
「うん。あの時?」
苦しい胸を服の上から握り締めて、しゃくり上げるあたしの涙をのんは指で拭ってくれる。
あの時も、そうだった。
「のんがいてくれたからっ……あたしは、あたしのままでいられた……っ」
ボロッと大粒の涙が落ちる。
鮮明になった視界の中で、のんは真っ直ぐあたしを見つめていた。
コツンと、のんは額をあたしのおでこにくっ付ける。
「……うん」
吐息を感じるこの距離で、のんは目を伏せながら微笑んだ。
「行ってらっしゃい、苺」
見送りの言葉を最後に、のんはあたしを引き離す。
……ごめんねは、言わない。ありがとうの気持ちの方が、大きいから。
ありがとう。
あたしを好きになってくれて。想いを伝えてくれて。
ありがとう。
あたしを守ってくれて。
いつも、そばにいてくれて。
何度言っても足りないのよ、のん。
「ありがとう……っ」
そう言ったあたしに、のんは笑顔を見せてくれた。
右手を強く握りしめて、忍のもとへ走る。
小さな小さな、ガラスの靴を持って。



