「……動かねぇんだよ。ずっと。透って存在が心ん中にいて、もうどうにかしたいとか、どうにかなりたいとか思わなくて。気持ちだけが残って、錆付いたみたいに動かねぇ」

「……っ」


好きだと気付いたのに、どうすることも出来なくて、何も出来ないまま時間だけが過ぎて。


透ちゃんには大事な人が出来た一方で、忍の気持ちは確かに在るのに。


揺るがずに、日々蓄積される鈍い痛みに、錆びていったの?


「……いい加減どうにかしねぇと、って思ってたんだ」


涙でぼやける忍は、寂しく笑っていた。


「婚約してんだよ、ふたり。子供の名前まで決めてるとかウケね?」


もう泣きたい。涙を流さない忍の代わりに、あたしが泣きたい。


「だから、お前が現れた時都合がいいと思った。利用して、透を忘れられればいいって考えてた」


……聞けるかしら。あたしがアタックしていた間にも、忍は透ちゃんを想ってたって。


他の誰かから聞くのと、忍本人から聞くのじゃ、全然違うから。


「似てると思った。お前と透。……でも全然似てねぇのな」

「……当たり前じゃない」


似てないわよ。パッと見とか、考え方は少し似てるかも知れないけど、あたし凄い積極的だもの。


バカでもチビでも童顔でもないし、透ちゃんは愛嬌があって人気者で、あたしは違う。


「最初は軽い気持ちだった。適当に、なんとなく。でもお前が本気だと分かって、やべぇと思った」

「……どうして?」


声が震える。耳を塞ぎたいけれど、聞いたのはあたしだ。最後まで、ちゃんと聞かなきゃ。