「まあそっから相談とか受けてたわけだけど、あんまり聞きたくねぇって思った。モヤモヤして、何か胸につっかえてる感じ? それで、好きだったのかって気付いて」
「……それはいつ頃?」
「あー……ちょうど今頃じゃね? まあ好きだって気付いても、何もしなかったんだけどな」
「……大聖先輩が透ちゃんを好きだったから?」
襟足を弄っていた手が止まって、忍はそのまま後ろ髪を掻く。その表情は、自嘲気味だった。
「そんな綺麗な話じゃねぇよ」
嘘だ。絶対、嘘。
「すぐに忘れると思ったんだよ。勘違いかもしれねぇって。じゃなきゃあんなバカ、好きになんねぇよ」
そうやって自分を誤魔化し続けて、大聖先輩を応援してたんでしょう?
……バカは、どっちなのよ。
「んで、夏頃か。アイツが……透が、学校一のモテ王子に惚れてるって知った」
「…………」
「アホだと思ったよ。どんだけ競争率たけぇ奴に惚れてんだって。叶うわけねーって思ってたのに、知りあってからすげぇ勢いで仲良くなってんの」
両手をジャージのポケットに突っ込んで足を組む忍は、ポツリポツリと言葉を紡ぐ。
「一緒に飯食ったとか、メアド交換したとか、カフェ行ったとか。夏休みもほぼ毎日遊んだとか、日に日に近づくふたりを、俺はただ傍観してた。……何もかも手遅れ過ぎて、なかったことにするには時間がかかり過ぎて、どうしようもなかった」
その気持ちを分かると言ったら、忍は怒るかしら。それとも呆れるかしら。お互いアホだなって、忍は言う?
「でも大聖はな、告ったんだよ。文化祭の日に、振られるって分かってて、それでも伝えるって。で、その日に透と昴は付き合って。俺は変わらず」
足首をブラブラさせて、それを見つめる忍の目。細く長いまつげが肌に影を落としていた。



