「陛くーん、燈磨くーん!」
「写真撮ろーっ!」
体育祭が始まってからというもの、ふたりは学年問わず女子に引っ張りだこ。
嫌な顔ひとつせず対応するふたりだから、写真だけじゃ済まない。
……こうなると長いのよね。
「のん、燈磨。飲み物買ってくる」
囲まれたふたりが振り向いてからそう告げて、返事を待たずに背を向けた。
「ねえ、何でいっつもあの子といるのー?」
そんな言葉を背に受けながら、人並みを縫うように歩く。
ふと校庭の隅に並ぶテントに目を向けると、実況席や音響班を行ったり来たりしている透ちゃんを見つけた。
その傍には忍がいて、透ちゃんは何か指示されたのかプリントを手にトラックへ走って行った。
「……」
キリキリと痛む胸を誤魔化すように頭を振って、思わず止まっていた足を一歩前に出す――と、背後からクスリと聞こえた笑い声に体がはねる。
「複雑って感じね?」
「なっ……驚かさないでちょうだい!」
振り向くと、そこにいたのは妖艶に微笑む奈々先輩だった。
いつも毛先だけワンカールさせている胸下まである黒髪を、今日はサイドにひとつくくりにしている。
いつ見ても歯ぎしりしたくなるほど美人。いやいや別に羨ましいなんて思ってないわよ。
「苺って呼んでも良くって?」
「え? あ、……別に何でも」
ていうか、あたしあんまり奈々先輩と話したことないわよ……。
いつも、そう。奈々先輩は目が合うといつも微笑んできた。



