「いや、ぶっちゃけちぃは押し過ぎだろ」

「黙れヘタレ隼人殺すぞ」


……猫被り過ぎじゃない?


驚きつつ怯える隼人先輩を眺めていると、ちぃ君が目の前に座った。なんだか悪そうな黒いオーラを纏いながら。


「押して押して押しまくればいいんだよ。それでも振り向いてくれない? だったらもっと押せ」


イケメンに言われると、納得と、疑心。


そりゃちぃ君みたいなイケメンに押しまくられたら誰だって落ちるわよ。……あたしは落ちないけど。


「ちぃの奴、懐かない野良猫追って学校まで行く気なんだぜ?」


ぶふっ!と吹き出した隼人先輩はコンマ1秒で吹っ飛ばされて、床に転がった。


振り返ったちぃ君は、何か?と言うように笑顔を見せる。勢いよく首を振ると、ちぃ君は満足そうに個室を出て行った。


「……俺一生こんな扱いだったら、ちぃと友達やめっかな」


床に横たわりながらブツブツ言う隼人先輩、気持ち悪い。


あたしは大きく溜め息をついて、苺のムースに手を伸ばす。その様子を、オッサンが頬笑みを携えて見ていた。



――食べたら帰ろう。

明日は学校に行って、忍のクラスに行って、好きだって言うの。


何回も何回も、「俺も」って言われるまで。



あたしの王子様。

その存在は、たったひとり。