噎せ返る様なシトラスの香りが、今の彼のお気に入り。

 吐き気さえ憶えるそれは、ラストノートが消えないうちにまた、シーツに振り掛けられる。


 ――頭が痛い。


 ――眩暈がする。


 僕は、嫌い。

 彼は、好き。


 その、芳香な香りに包まれて。

 その、苛烈な香りに僕を押し込めて。

 彼は其処に安息を求める。


 シトラスの香りと僕が、彼のトランキライザー。


 僕だけじゃ、駄目ですか?

 僕だけじゃ、足りないですか?


 僕だけじゃ、貴方を満たせないのですか?


 ――・……。


 そうやって僕は、彼の為に眠れない夜を過ごす。


 吐き気と頭痛と眩暈と。

 愛しい彼への深い気持ちと。

 やり場のない強い嫉妬と。


 色々なものを抱えて。

 色々なものを抱えている彼に抱かれて。


 馨し過ぎる夜は更けてゆく。

 





 僕の安息は貴方の腕の中にあるのに貴方の腕の中は僕が苦手で苦手で僕が嫌いな嫌いな香りが占領していてとても居心地が悪くてとても不愉快でならなくてそれでも僕は貴方が好きだから貴方を愛してしまっているからその安息である腕の中に居るというのにどうして貴方は僕の気持ちに気付いてくれないのだろうと夜になる度貴方が眠りにつく度に考えてしまう僕は決して病んではいなとは思うのだけれどそれ以上に貴方のことが心配でならないから僕はこうして僕にとっての安息の場である筈の貴方の腕の中に居るのはそれは僕の意思であって僕が望んでやっていることであって決して貴方は悪くないのだけれど僕に安定は訪れない。






 ――・……眠れない。