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 ざわざわ、ざわざわと、喧騒が聞こえる。



馬の死骸を投げ付けたんだそうな……

即死ですって…

またあいつか……




 機織り部屋へと集まって来た神々は、ひそひそと声を潜めて口々に言葉を交わす。大衆が遠巻きに眺める先は自身の数倍大きな身体を持つ怪力の神、天手力男(アマノタヂカラヲ)に羽交い締めにされ、なおも身を乗り出そうとする荒神の姿だった。


「貴様ァッッ!!よくもそんな口をぬけぬけと…っ姉上を愚弄するなど…ッ」

「スサノヲ…!」

「次あのような事言ってみろ!!またあのようなこと言おうものなら…」

「スサノヲッッ!!」



 アマノタヂカラヲの恫喝に我に返ったスサノヲの目に、自分の肩にあったはずの馬の死骸と、その下で血溜まりをつくる機織り女の姿。
 もう死んでる――抵抗しなくなったスサノヲに、アマノタヂカラヲが悲しげに言った。彼もまた、スサノヲとアマテラスの事を案じる一人だったのだ。


 あまのじゃくで、悪さばかりする不出来の弟のようなスサノヲを、可愛がりながらも叱ってきたのは彼だった。




「タヂカラオ―……俺は―――」


 呆然と、零すように出た言葉は群集のざわめきによって遮られる。