アハハハ…ッ



 気付くと、機織り女達の仕事場の辺りまで来ていたらしい。楽しげに談笑する甲高い笑い声が戸から漏れていた。
 五月蝿いと怒鳴ってやろうとも思ったが、肩に乗るその重みが自分の当初の目的を思い出させ、珍しく思い止まる。

 アメノウズメの住む場所は此処から近かったはずだ。機織り女達の世間話などに構わずさっさと行って、次の指示を仰ごう。



 馬を担ぎ直し、踏み出し、そこで例の甲高い声は意図せずもしぶとく鼓膜を揺らす。




「まったく、アマテラス様もお気が弱くていらっしゃること!」

「あのように愚かしい弟君にいつまでも手をお焼きになられているようでは…」





 響く、響く、甲高い笑い声。
 揺れる、揺れる、世界と芯。







 その瞬間、彼には当初の目的も、肩の重みもなく、胸にあった温もりはどくどくと頭に昇り甲高い振動にいとも簡単に振り切れてしまったのだった。