「こんな…独りきりで、私達の声の届かない所で泣いたりなさらないでくださいまし…」


 戸惑うように後ろを振り返ると、もう岩戸には戻れぬようしめ繩が張られていた。


嗚呼、もう戻れない…



 自分を抱きしめる温もりに戸惑いながら、ぼんやりそんなことを思う。



「アマテラス…」

「タヂカラヲ…あの、私…」

「スサノヲはとんでもないことをしました。しかし、今回に限っては絶対にあの者の本意でなかったようです」



 そんなこと、恐らくアマテラスにもわかってはいたのだ。
 それでも、命を奪ってしまったという事実は彼女の心を酷く傷付けた。

 それこそ食物の神を斬り殺したツクヨミと仲たがいをし一昼一夜を分かつ事にしたように。



「そして、どんなことがあろうとも貴女様は太陽なのです」


 アマノタヂカラヲは低い声で、それでも懸命にきつく聞こえぬよう腐心している。

 やがて、やっと言う事を見つけたように真っ直ぐ彼女を見つめた。



「我々を照らして下さい。
貴女が幸せに世を照らせるように、我々がついているのです」