私は鏡を―それなら私は勾玉を―賢木を――と、神々は口々にその場を離れ準備に向かう。


 オモヒカネはその場所から動かずにいるアメノウズメにゆっくりと近付いた。


「釈然としない面持ちのように見受けるが…」


 アメノウズメは彼女には珍しく僅かばかりの逡巡を見せたが、すぐにその形の良い唇を開いた。



「貴殿の案、確かに素晴らしい案であると私も思います。ただ…」

「ただ?」

「彼女、アマテラスにも思う所あっての此度の事と思うと……」


 複雑なのだろう。
 特に姉を喜ばせるためと、共に計画していた立場もあってか、アメノウズメには信頼をまたしても覆されたアマテラスも、姉を思って失敗をしたスサノヲも不憫なのだ。



「あの者は照らす者ぞ」


 オモヒカネの声は穏やかであっても頑強である。
 如何なることがあろうとも、その身を隠す事は許されないのだ。


「ふさぎ込めぬ者の気を晴らしてやるのもまた、貴公らの務めだろうて」


 すれ違うように歩き過ぎるオモヒカネを振り返ると、彼はアメノウズメにしたように、彼女のすぐ後ろにいたアマノタヂカラヲにも軽くぽんと手を置き去って行く所だった。