小学校に入学した達郎は夜、ひとりで寝るようになった。

「ただその日はどうも寝付けなくてさ…」

母親の寝室に行った達郎は、お母さんに

『部屋にお化けが出た』

とウソをついた。

するとお母さんは何も訊かず

『怖くなかった?』

と優しい笑顔を浮かべながら抱きしめてくれた。

そしてその夜はそのままお母さんと一緒に寝たそうだ。

淑恵がリカちゃんを抱きしめた話を聞いて、そんな事を思い出したのだという。

なるほどね、それであんなムキになったのか。

「…にしても20年近く前の事よく覚えてたわね」

「母さんに抱きしめてもらったの、それっきりだったから…」

「…!」

そうつぶやいた達郎の横顔を見たあたしの胸が、きゅうんと音を立てた。

やばい…!

もしここが外じゃなかったら…。

ケーキ持ってなかったら…。

2人きりだったら…。

あたし、達郎を抱きしめてたかも…。