甚兵衛は少女の腕を離してしまったことに対して、少女は甚兵衛の財布を落としてしまったことに対して、二人は思わず声を上げた。




 一瞬、二人が互いを見詰める。




 先に動いたのは、少女のほうだった。




 サッと踵を返すと、遠巻きに見ている人混みの中に消えていく。




 だが、人混みに混じる直前、甚兵衛のほうを振り返り、あっかんべーをした。




 甚兵衛は、半分呆気にとられて、少女を見送っていた。