さよなら、もう一人のわたし (修正前)

 人生は一つじゃない。その人の数だけ、未来がある。

 千春の選んだ未来はあたしとは全く違うということだけなのだ。

「その夢、叶うといいね」

 千春は顔を染めて微笑む。

 そんな彼女はかわいいと思ってしまう。

「あたしの話はいいのよ。でも、あたしの伯父がしつこいの。死ぬまでにもう一度あの映画を撮りたいと言い出してさ」

 彼女は咳払いをすると、まくしたてるように早口でそう言った。

「死ぬまでにって病気とか?」

「そういうわけじゃないけど、言葉のあやみたいなやつだと思うよ。歳も歳だからね。あたしに才能があるからって。あたしを逃したら他の人が見つかるか分からないってさ」

「才能か」

 よく分からないが、確かに彼女は上手だった。

 少なくともあのときの彼女は自分の世界に入り込んでいたのだ。