「あのシーンだって嫌なら監督にカットしてもらうように頼もうか? 正直あんなシーンいらないと思うし」

「あたしは平気だよ。きっと杉田さんとなら嫌ではないから」

 きっと嫌ではないから。

 それは十分分かっていたのだ。

 あたしのことをこうやって気遣ってくれる。

 あたしにとってそんな彼の傍にいることが心地よかった。

 尚志さんとは違う気持ちを抱いていたのだ。

 あたしは彼の手を取った。その手を頬に当てる。

 尚志さんに対する胸が高鳴る気持ちと、彼に対する心を落ち着かせるような気持ち。

 そのどちらが強い気持ちなのだろう。

 でも、その気持ちはきっと比べることのできない二つとも強い気持ちなのかもしれないとも思っていた。


 撮影が徐々に進んでいく。

 どんなに大変でも彼がいてくれたから頑張ろうと思った。

 その気持ちはやっぱりとても優しいものだったのだ。