俳優になるはずの彼はあまり気にしないかと思っていたのだ。

「僕も人のことは言えないけど、自分の好きな人は独占したいと思うんじゃないかなって思うからさ」

「杉田さんもそんなことを考えるんだ」

「前から思っていたけど、君はさ、僕のことをかなり勘違いしていそうだよね。別に僕は完璧な人間でもないし、普通の人だよ」

 彼は苦笑いを浮かべると、天井を仰ぐ。

 彼の瞳はあたしの心を切なくさせた。

 彼が思う好きな人というのはあたしのことなのだろうか。

 もし、そうだったのなら、あたしはかなり無神経なことを言ってきたのだと分かった。

「変なこと聞いてごめんなさい」

「いいよ。でも、少なくとも話しやすいと思ってくれているのだろう?」

 あたしは頷く。

「正直、よく分からない。自分の気持ちの正体がどんなものなのか、とか。嫌いじゃないから好きとかそんな簡単な気持ちじゃないから」

 なぜ、彼に対する気持ちだけ、そんな迷いが生じるのかあたしには分からなかった。

「別に気にしなくていいからさ」