「違ったらごめんね。お兄ちゃんに何かされた?」

 彼女は鋭い。

 気づかない振りをしてほしかった。

 あたしは首を横に振る。

「どうして泣いているの?」

 あたしは千春の言葉に自分の頬に触れた。

 そこは水で濡れていたのだ。

 そんなあたしを千春が抱きしめた。彼女の体はとても温かかった。

「ごめんね。お兄ちゃんは映画とか嫌いだから。多分、酷いことを言ったのでしょう?」


 でも、言ったら彼女はもっと苦しむから言えなかった。

「違うよ。あたしのことが好きじゃないと思う」

 でも、どうして彼はあたしに優しい言葉を投げかけたのだろう。

 その理由は分からない。

 でも、彼があたしに昔のような瞳を向けてくれることはないだろう。