before kiss, after kiss[短篇]

そんな思いが顔に出たのか、押見は一層にやにやと笑い出した。


そしてようやくその手を放してくれる。



「じゃーちょっとそこらへん散歩しよ?」


値切るときは大きく出ろ。


そんな極意を今思い出してしまった。


セックスから散歩になると、まあそれならと思ってしまう、そんなバカみたいな私。



けれども私が了承する前に押見はデニムのポケットから財布を出し、ふたり分の料金をカウンターの上に乗せていた。


「たいしょー、ごちそうさまー」そんな声を店の奥に向かってあげながら。



一瞬、自分の分ぐらい出そうかどうか迷って、財布から手を離した。


ここで借りを作るのも、と思いもしつつ充分これでイーブンだとも思ったから。



古びた引き戸を開けると、外はだいぶ涼しくなっていた。


温かいラーメンを食べた後だからか、余計に風が冷たく感じる。



「さむいねー、すっかり秋だねー」


押見は呑気にそんなことを言いながら。


何故かさりげなく私の手を握ってくる。



「あのね」

「寒いんだからいーじゃーん」


でも抗議の声を上げる前にがっしりと握られ、歩き出されてしまった。


不本意ながらも手を繋いだ状態のまま、細い路地を進んでゆく。