「そう言ったんだけどな。スキャンダルのこと、気にしてるんじゃん?あの日、それがなかったら伊吹が来たんじゃないかって。」


「…それは。」


行ったんだって言いたい。


でも…。


「マキちゃんから聞いた。事務所にもいなかったって。」


ほらね。


もう遅いんだよ。


「うん。あたしは、キチンと答えたよ。」


みんなと七瀬の気持ちに。


ただ、届かなかっただけ。


「そうだな。ありがとう。」


七瀬が立ち上がって、スッと目の前に手を差し出した。


「これからも頑張ってね。今度は、ファンとして応援してるから。」


あたしも立ち上がると、手を差し出して握手した。


七瀬の手は、こんなにも温かかった?


優しくて…


力強くて…


握手してるだけなのに、抱きしめられてるみたいな感覚。


手を離すと、うつむいたまま七瀬をよけて通路に出た。


だって涙が出てきちゃって。


諦めた七瀬に見せられないよ。


急いでトイレに駆け込むと、声を押し殺して大泣きした。


こんなにも七瀬が好きになってるのに。


巻き戻せない時間に、苛立って悔しくて。


どこにもぶつけられない気持ちを、流しだしたかった。