昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜

さくらちゃんのでっかい瞳が潤む。

薄い背中をさすりながら、首を傾げた。


…拒んだ?


「あんな…多分めっちゃ我慢させとったと思うねん…か、」

「我慢…?」

「…っ、ウチとな…ウチとまさるくん、まだしたことない…ねん、」


心臓がドクッてなるのがわかった。

体ん中がヒヤッてする。


温泉であたしに尋ねてきたさくらちゃんを思い出す。そう言えば様子がおかしかった。


だってかっちゃん。…かっちゃんやで?

半径三メートル以内に入ったらアカンくらいのかっちゃんやで?


《王沢勝の脳みそは性欲のみで構成されています》


これを英語にしなさいっていう問題文ありそうなくらいやのに。

誰か訳してみて。オンリーなんとかや。ごめん、ウチ英語無理やねん。


「でな、そのことでさっきモメてもて…」

「……」

「ウチ、な?まさるくんはめっちゃすき、やねん。優しいし、カッコエエし…ほんま、けど、」


さくらちゃんは途切れ途切れ、でも一生懸命しゃべる。

さくらちゃんの好きなかっちゃんは、ウチの好きなかっちゃんとは違うんかもしれん。

優しない。カッコエエ言うより中身ただのオヤジや。


けどな。めっちゃ好きなん、伝わってきてん。


さくらちゃんもウチと同じくらい、かっちゃんのこと好きなんやなぁて、伝わってきてんか。


鼻がツンてした。



…泣きそうんなった。



「それはホンマやねんか…っ、でも、まだウチ、そういうのは怖くってな…っ、」

「…さくらちゃん」

「お…おかしいよな?つきおうてるんやし…ウチもう、ハタチやのに…」


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