昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜

かっちゃんの顔が怖い。オーラが黒い。間合いに入ったら切りつけられそうなんですけど。


「…さくらちゃんは?」

「知らん」

「知らん……って、はぁ!?」


あんぐりと口を開けたまま固まるウチの横を素通りし、テレビの前の座布団にドカッと座るかっちゃん。

もう暗いし、しかもこんな右も左もわからん旅先の道中で女の子置き去りにしてくるってどういうこと。


「こんな夜にさくらちゃん一人にしてどうすんの!?」

「………」

「無視すんなボケ!!」

「…痛っ!?」


頭を思いっきりはたいて怒鳴った。

かっちゃんの短い黒髪が小さな抵抗みたいに手のひらにささる。


「俺、ちょー外の様子見てくるわ!!」


風間が立ち上がって出て行こうとするのを、腕を掴んで止めた。


「…ウチが行く」

「いや、でももう暗いし──」

「目には目を!女には女を、や!!」

「…ハイ」


目ぇかっぴらいてそう言うたら、ウチの勢いに気圧されたんか風間がちょっとひるんだ。

下駄箱からスニーカーを出して足にはめると、そのまま部屋を飛び出す。

浴衣にスニーカー。しかも温泉上がりですっぴん。


さくらちゃん怖い思いしてるやろな。可愛いから変な奴に絡まれてないとエエけど。


…かっちゃんとさくらちゃん、あんな仲良かったやん。一体何があったねん。


旅館の従業員らしきおじちゃんがびっくりした顔で走り去るウチを見る。

受付の正面玄関を出る。あたりは薄暗い闇。右?左?コンビニはどっちやったかいな?

…人捜しのキホンや。とりあえず名前呼ぼう。


「さくらちゃ──」

「はい」


びっくりして振り返る。


入り口からちょっと行ったとこに、さくらちゃんが小さくなってしゃがんでた。


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