昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜






そんとき目に入ったのは。





カラフルな出店なんかやなくて、


フランクフルトて書かれた、看板なんかやなくて、



人混みのなか。


ひとつぶん飛び出た、黒い頭。




「───────」





──かっちゃん。





「…優子?」


棒立ちになったまま、その場から動けへんかった。

ウチらが向かう方向とは逆に、こっちに歩いてくる集団。

あれから合流したんやろか。かっちゃんは数人の男女の中に入り交じって笑ってた。


来る、来る、こっち来る。


ウチはかっちゃんから目ぇはなせへんのに、かっちゃんがウチを見ることはない。

あんなに意気込んで走り回って捜し回って、やのにいざ本人目の前にしたら、何をどうしたらええんかわからへん。

向こうは友達とおって、ウチも友達とおって。どうすればええの。今さらぶった常識が、今さらになって行動を妨げる。

合わない目線。

ウチには見せへん綺麗な笑顔のまま、かっちゃんがすぐそばを通りすぎる。


肩と肩の動線がクロスする。行ってまう。行ってまう。



待って。



行かんといて。




行かんといて、かっちゃん。




「……かっちゃん」




すれ違いざまに、呼んだ。呼んでしまった。



…そしたらもう、溢れて止まらんくなった。



「〜かっちゃん……っ!!」