昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜



「〜どこ…っ、行ってん…!!」


もう帰った?いやでも、こんだけ混んどる中あんな短時間で帰るなんて不可能や。まだ、おるはず。かっちゃんがこの祭りん中のどっかにおることは確か。


降りたばっかの階段をかけ上がって、また人混みに飛び入る。

むきだしになった素足は暗い中でもわかるくらい、汚れて黒くなっとった。


会いたくないときには遭遇するくせに、捜しとるときには影すら見えへん。

逃げたいときには捕まえるくせに、追いかけたら行方をくらます。


なんでやろ。こんなにも、求めるものとは違うのに。


息を吸い込んで、走った。走って、さがす。さがす。人混みからひとつぶん飛び抜けとるはずの黒い頭。

灯りのともらないアパート、303号室。


…多分今日逃したら、いつ会えるかわからへん。


今日やないと。


きっと今の勢いやないと、ウチは全部ぶつけられへん。



「あれ?優子やん」

「…………へっ」


必死の形相を向けるにはあまりにものんびりした声が、ウチの名前を呼んだ。

振り向くと、馴染みのある顔の集まり。同じく祭りに来ていたらしい、大学の友達集団やった。

キレイにまとめられたおだんごが、笑いかけるみたいにウチに向かって揺れる。